音楽と頭の問題

スコアを読むことで知る耳の能力


●2月22日

 先週、ある生徒が一週間連続でレッスンを受けました。レッスンと言ってもヴァイオリンのレッスンではなく、「音楽一般」のレッスンです。曲の構造や楽譜の読み方などにとても興味を持っていて、「休暇を取ったついでに」集中的に講義をして欲しいとお願いされたのです。普段のレッスンや理論講座ではできないことをできるだけ丁寧にやってみようと思ってお引き受けしました。

 音楽史の学び方、スコアの読み方などの講義をしていて、この生徒が「音を平面で聴いている」ということがよくわかりました。そこで、後半は「耳の使い方を変える」ことに主眼を置いてレッスンをしました。レッスンを行なっているスタジオには、ピアノや各種の弦楽器、楽譜、資料などがたくさんあり、パソコンで音を聞くこともできますから、さまざまなことを体験してもらいました。

「音を平面で聴いている」状態には、二つの意味があります。「複数の楽器を同時に聴けていない」とうことと、「音楽のつながりが旋律のみになっている」ということです。この生徒は音楽が大好きで、スコアをたくさん買い込んではCDを聴きながら一生懸命追いかけていました。しかし、せっかくたくさんの音が鳴っているのに、ほとんど旋律の進行を追いかけているだけだったのです。

 オーケストラの演奏を最初は何も言わずに聴いてもらうと、確かに旋律以外は「聞こえない」。それで、スコアのティンパニや低弦パートを歌ったり弾いたりして聴いてもらうと・・・「聞こえました!!」そこから先は簡単。1日でスコアの中からさまざまな音を感知することができるようになったのです。

 スコアを「見る」ときは、まず「眺め」読みをすることが必要です。どうしてもわかりやすい旋律パートだけを追いかけてしまいがちなのですが、そうするとスコア全体を見ることはできません。それも説明して、簡単な曲からスコアを見てもらいました。すると、演奏が「立体的に」聞こえるようになりました。

 多くの生徒を見ていると、自分の耳の能力を信じていない(信じられない)人が多いのに驚きます。耳が高度な仕事をしていることはあちこちで書いていますが、ちょっとしたことで耳の使い方が変わる例はとても多いのです。今回のこの生徒は、これからは音楽の聞き方がはっきり変化するでしょう。それが、自分の演奏にも良い影響を及ぼすはずです。

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音の処理で頭がやっていること(1)

●12月15日

 最近、レッスンで興味深いことが何回かありました。覚え書きのために書いておこうと思います。

 ここ1年くらいの私の最大の興味の対象は、頭の働きです。いわゆる「認知心理学」「認知科学」の分野の問題ですが、最新の研究成果などを読んでいると、これまで考えてきたさまざまな問題についてのサジェスチョンがあったり、「やっぱりそうか」という発見があったりします。レッスンでもよく「頭の働き」の話をするのですが、運動にも音のイメージ作りにも、音感のトレーニングにも、およそ意図して行なう活動全てに関係がある問題なので、話の内容は多岐にわたります。

 偶然ですが、何人かのレッスンで「音を頭がどのように処理しているか」ということが話題になりました。

 話を単純化するために、基本的な分散和音を弾いているとします。弾く時には、通常、

・音符を見る
・音名を参照する
・音高(音程と考えても良い)を頭でイメージする
・左指の運動をイメージする・指令を出す
・右手に指令がいく
・弾く
・音を聞く
・聞いた音を判断する
・修正が必要であれば修正する

という順序(左右がセットになっている場合もあるので、順序は厳密ではありません)で頭が働きます。ここまでは皆さんもすぐに想像がつくと思いますが、今私が悩んでいるのは、この一連の動作そのものと、そのつながりです。簡単に羅列すると

1)音符を見てから音高をイメージするまでに起こっていること
1’)音符を見てから左指運動をイメージする・指令が出るまでに起こっていること
1’’)音符を見てから右手に指令がいくまでに起こっていること
2)これらの指令のタイミング調整
3)弾く運動の指令がどこまで有効か
4)音を聞くタイミング。特に運動との関係(運動によって聞くタイミングが異なるかどうか)
5)音を判断するときに起こっていること
6)判断してから「意識下で修正する」「意識上で修正する」「修正しない」という判断が行なわれる違い。

 なぜこのようなことを考えているかというと、「できない理由」を確定させるためです。

① 分散和音を弾いていてある音程の修正が利かない、ある音高だけ「聞こえない」のは何故か。
② 音符を見た時の判断の基準やタイミングはどのように違うのか(例えば、速くすると音名の参照ができないのは何故か・・・頭の参照作業は瞬時に行なわれるので、多少速くしたために行なわれないことはない。その結果を利用できなくなるだけ)
③ 音高の修正に意識の差が出るのは何故か
・・・・・・・・・などなど・・・・・

 疑問に思うことはやまほどあるのですが、ある程度の回答や仮説ができるものもありますし、まったく理解できないものもあります。

 この問題については「ぼちぼち」にはなりますが、レッスンでであったことや考えたことをこのタイトルで続けたいと思います。

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