日記・コラム・つぶやき

飲み屋でアンサンブルの極意を見た

 最近、名古屋で行きつけの店ができました。隔週の名古屋のレッスンは、金曜の午後/夜と土曜日です。土曜日は名古屋の生徒と食事をするのが恒例なのですが、問題は金曜日。ひとりで食事ができる(飲める、とも言う)安くてよい店はなかなかありません。金曜日に泊まり始めた当初は、ホテルのそばに王将やマックしかなく、ホテルで寂しくビール、ということもありましたが、昨年の暮れに名古屋の生徒が見つけてくれたお店(一位/http://r.tabelog.com/aichi/A2301/A230102/23000898/)がとっても気に入ってしまいました。

 ひとりで飲む(食事、と強がるのはやめよう/爆)、というと、カウンターに座って、大将(おかみ)と話をしながら静かに、というイメージで、そんな店を探していたのですが、ここはキャパの大きな居酒屋です。1Fに8席ほどのカウンターはありますが、後は椅子席で全部で50席ほど。そんな店内は「おやじ」と呼ばれている店主と、厨房の3人の若い男性、サービスをする5人の女性の元気な声が溢れています。

 この店は、「おやじ」が集めているこだわりの日本酒がとてもよい。あちこちで日本酒を飲みまくった私でも、飲んだことがない酒が結構あります。珍しい限定酒なども新聞紙にくるまれて冷蔵庫にはいっていたりします。基本的に「こんな味が好き」というと、「次は、これ」と言って選んでくれます。それがこの店の一番の楽しみ方でしょう。料理は「居酒屋料理」ですが、この値段(飲んで食べて3000〜4000円くらい)で出てくるものとしては極めて良いものです。そんなわけで、飾らなく飲むにはとってもよいのですが・・・「そんな広い店にひとりで言って楽しいの?」確かに、ひとりで来ている客はほとんどいません。

 この店は、働いている人たちを眺めているだけでも楽しい。完璧なアンサンブルなんです。

 働いている女の子は、20歳近辺の若い子が4人。少しお姉様が1人、かな? ところが、みんな「タメ口」(笑)。なんたって、初めていった時から「おっちゃん、楽器持ってんの。何か弾いてよ」ですから(爆)。なのに、とっても気持ちの良いホスピタリティを感じます。その理由は、何回か通ってあれこれと話をして納得しました。

 最初に驚いたのは、働いている人が全員、会計ができること。マニュアル全盛の今時、会計を全員ができる居酒屋なんてありません。それも、ポスシステムで注文したものが自動的にわかるわけじゃない。他の店員が書いた伝票でも、見て、こなさないといけません。二十歳そこそこの子たちが、「ふつーに」やっているんですね。要するに、すべての店員が「全部できる(もちろん、料理を作ることと、酒を選ぶことは別)」のです。だから、自分で進んで仕事を見つけることができる。滞っているところがあったらすぐにサポートに入る。お客さんがきょろきょろしたら跳んでくる。当たり前のことのようですが、こんなことができている居酒屋には、長いこと出会っていません。

 先日は、とても気持ちの良い経験もしました。ある時、このお店でヨッパライに絡まれたのです。しかも、音楽のことで(苦笑)。「お前は音楽がわかっていない」とかなんとか・・・「運命をやった?版は何だ。ベーレンライター? を、少しはわかってるようじゃないか。それなら、フルトヴェングラーの良さがわかるだろう」という具合です(爆)。まぁ、ヨッパライの戯言で適当にあしらっていたのですが、あまりにしつこいので、「申し訳ありません。僕もプロですので、何も知らない素人さんと議論してもしかたないので、失礼します」と言って、自分の席に戻ってしまいました。

 その次に一位に行ったときのこと。サービスをしている女の子たち全員が、私の横を通るたびに「この前はごめんね。でも、おっちゃん大人だったねぇ。株が上がったよ」なんて、声をかけてくれるのです。現場を見ていたのは1人か2人だったと思うのですが、みんなが情報を共有しているのですね。ミーティング、なんていう堅苦しいものをやっているとは思えないのですが(笑)、働いている人たち全員が「私のお店」という意識を共有してるんですね。

「お名前様、いただけますか」なんていう間違った「くそ」丁寧語を使うようなチェーン店の接客とは違う、本物の「もてなし」ですね。少々乱暴ではありますが(笑)

 ただ合わせるだけの音楽はアンサンブルではありません。そういう意味で、極上のアンサンブルを聴いているような気分が味わえるのです。

 ちなみに・・・例によって、ヴァイオリン、弾きまくってます(爆)次回は29日ですね。

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もうすぐ発表会

2012  毎年恒例の発表会を、今年も5月5日に行ないます。昨年は震災の影響で中止になってしまったのですが、今年はたくさんの生徒(全体の4割りほど)が参加して行なわれます。初出場の生徒も多く、どんな発表会になるか楽しみです。

CONSONO21 発表会
2012年5月5日 新宿区四谷区民ホール 12:30 開演予定
(画像は、演目と順番だけのチラシです)

 発表会は、教室の最大の行事です。最初に発表会を行なったのは、もう20年ほど前ですが(先生数人で合同で行ないました)、現在のような形になってからは、今年で9年目。あれこれと試行錯誤しながら、少しずつ良い「場所」にしようと思っています。

 発表会とは何か、というのは、実は簡単に言えることではありません。生徒のイメージもそれぞれですし、教え手の意図もさまざまです。「日頃の成果を披露する場所」というのが比較的多くの人が持っているイメージかもしれませんが、私が発表会を一生懸命やるのは、全く意図が違います。

 そもそも「教え手とは何か」ということにもつながるのですが、私は、発表会は「生徒にとっての経験の場」であると思っています。特に、大人の生徒さんにとっては、とても重要な場所だと思うのです。経験とは、多くの意味を含みます。「本番を踏む」ということももちろんです。「発表会までに曲を仕上げる経験をする」ということも、もちろんその中にあります。そして、「さまざまな経験ができる」ということが、欠かせないと思うのです。

 最初に発表会をやったときから、いくつかの前提条件と、将来的な目標を決めていました。それは

★ 同じ曲を複数の生徒が弾かないこと

 発表会では、進度が似たような生徒が同じ曲を弾くことがよくあります。自分が過去に発表会に出た経験から、同じ曲を他の人が弾くのはとても抵抗がありました。(もちろん、コンクールなどでは同じ曲をみんなで「比べる」のですが)自分が発表会を主宰するようになって、まず決めたのがこのことでした。でも・・・出演者が50人くらいにふえたら、そうも言っていられないかもしれません(50人になったら、1日では入らないから問題は起きないかも/苦笑)

★ できるだけ曲を分断しないこと

 レッスンでは、ほとんどの場合、曲を楽章ごとに練習します。ですから、発表会も「なんとかの第1楽章」「なんとかの第2楽章」などと、曲のある楽章だけを取り上げることが多いものです。しかし、曲はひとつの不可分なものであることが多く、なんとなく中途半端な気持ちがしていました。ですから、せっかくステージで弾く経験ができるのですから、できるだけ、ある楽章だけを取り上げることは避けています。だから、毎回時間が長いのですが・・・

★ できうるかぎり、弾きたい曲を原曲の形で演奏すること

 これも、とても難しいことです。特に、子どもの生徒が多くプロ志望の子どもがいるような教室では、どうしてもメカニックな協奏曲をたくさん弾かせることになり、必然的にピアノ伴奏でコンチェルトを弾かねばならなくなります。それはそれで必要なことではありますが、ベートーヴェンやブラームス、シベリウスの協奏曲などをピアノ伴奏で聴くと、別の曲に聞こえます。もちろん、生徒が弾きたい場合は敢えて止めることはしませんが、基本的には発表会でできるスタイルの曲を勧めています。このような方針でやるためには、発表会の場での選択肢を増やさなければなりません。そのために、弦楽合奏の伴奏や室内楽、チェンバロなどを発表会で使うようになりました。コンチェルト専用の発表会を行っているのお、それを徹底したいからです。

★ 他の生徒にも興味を持ってもらうこと

 自分が演奏したら終わり、ではなく、他の生徒の演奏を聴いたり、何を学んでいるかを知ることはとてもよい経験になると考えてきました。レッスンでも、他人のレッスンを見学することはとても良い勉強になります。どうしたら生徒にそのように思ってもらえるか、というのは、今でも悩みのひとつですが、少しでも興味を持ってもらうために、プログラムで生徒や曲の紹介を書くことにしています。毎回、発表会とは思えないページ数のプログラムになって、お手伝いの生徒さんたちには迷惑をかけていますが・・・

 まだいくつかありますが、大きな方針はこのようなものです。

 あと1週間ちょっと。今年も「わくわく」しながら準備をしています。

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洗濯機がこわれた! みなさんもヒートテックに注意しましょう

 先日、洗濯機が壊れました。しばらくおかしな音が聞こえていたのですが、とうとうご臨終・・スイッチを入れるとすぐに止まり、エラーコードがでます。取扱説明書にも出ていないコードで、サービスセンターに電話。修理に来ていただきました。

 修理に来た技術者は、かなりベテランでとっても詳しい方でした。いろいろとお話をさせていただいて、最近の洗濯機事情に少し詳しくなりました。そして、故障した原因も・・・私が特に不注意なのかもしれませんが、知らない方もいるのではないかと思い、ご報告。

● 故障の原因は「ヒートテックの下着」だった!!

 動かなくなった直接的な原因は、洗濯槽の下部のプラスチックが溶けて、まわりに癒着してしまったことでした。さらに、回転するプロベラ部分にも癒着が広がって、羽が外せない状態になっていました。手作業でがりがりと癒着部分を剥がし、何とか使えるようにしてもらいましたが、「今度故障したら、もう部品の保管年限を過ぎているので、買い替えた方がいいかも」とのこと。まだ7年目です(涙)

 さて、プラスチックが溶けた理由です。「ヒートテックを使ってませんか?」

 ヒートテックの素材は、乾燥している時に異常な高温になるそうです。ですから、ヒートテック製品には「乾燥機にかけないで下さい」と書いてあります。しかし・・こういう注意書きは、しっかり見ないことも多いですね。それに、衣類の「乾燥機禁止」は、服が傷むから、とばかり思っていました。まさか、洗濯機がダメになるとは・・・

 しかし、洗濯機側には注意書きがありません。なぜなら、ヒートテックが登場したのは、2003年で、この洗濯機が発売になったより後です(涙)。しかし、よく聞いてみると、一番新しい洗濯乾燥機でも、ヒートテックはやはりダメだそうです。当然、「温度センサーはついていないのですか?」と質問しましたが、現在の洗濯乾燥機についている温度センサーは、駆動部には対応していないとのこと。ですから、プロベラの溶解は防げないようです。

 しかし・・・

 とにかく、電気製品の買い替えのサイクルが短くなりましたね・・・パソコンや携帯に限らず、白物でも、サイクルが短くなっているように思います・・・

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六義園のしだれ桜

 仕事場である私のスタジオは、JR山手線駒込駅のちかくにあります。駒込駅は、山手線の中では超ローカルな駅で(笑)、南北線ができるまでは乗降客数もとっても少なかったのです。私も、17年前にこちらに引っ越して来た時には「駒込って、人が住むところ?」(なんと失礼な/汗)くらいに思っていました。ところが、住めば都とはよく言ったもので、すんでみるととてもよい街であると思うようになりました。

20120404_2  駒込駅近くに、六義園があります。六義園は、元禄時代に柳沢吉保が作った庭園です。2万7千坪ほどの土地に、静かな池とアップダウンのある庭園が広がっています。普段は散歩コースとして、とてもよいところ。スタジオは本郷通りに面しているのですが、ちょうど向かい側が六義園。ビルが邪魔で見えないのですが(苦笑)

 六義園が、年に2回、有名になります。紅葉の時期としだれ桜。とりわけ、邸内にそびえるしだれ桜は、東京1ではないかと言われているほど立派なものです。毎年、満開の時期にはライトアップがあって(普段は5時で閉園)、日中からたくさんのお客さんで賑わいます。観光バスがずらーっと止まる風景は、ここ5年くらいのことですが、ピーク時には入園に1時間待ちになることもあります。

 そのしだれ桜ですが、先週の土曜日(31日)には「莟」だったのですが、嵐の後の暖かさで、昨日から「見頃」になりました。まだ、若い桜ですので、元気いっぱい。それは見事な景色です。

 時間があれば、みなさんに見ていただきたいですね。ただし・・・食事には苦労します。ただでさえ少ない店が、どこもいっぱいになってしまいますから・・・

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ピアノを調律しました

 一昨日、半年ぶりに調律をしました。今回は、ちょっと新しい調律師さんにお願いしてみました。うるさいことを言ってごめんなさい・・・

 私のスタジオのピアノは、キルンベルガーの第3に調律してあります。理由は、調性の「色」が見えるようにする(生徒に知ってもらう)ためです。ですから、調律師も限られてしまいます。

 ピアノを古典調律にしようと思ったのは、10年ほど前に、作曲家・ヴァイオリニストであった故玉木宏樹さんの事務所にお邪魔したことがきっかけでした。チェンバロの調律は20年前からやっていましたし、ピアノでやっても色合いが違うということは理屈ではわかっていたものの、玉木さんが示して下さった音律による調性の違いは、ある意味で衝撃的でした。それまで頭の中で考えていたことが、何も考えずに理解できたのです。

 ピアノは、ある種の特殊なものを除いて、平均律に調律するように作られています。そのために、「古典調律にしたら楽器が鳴らなくなりますし、楽器によくありません」という調律師もいます。それはそれで一理あるのかもしれませんが、それにしても平均律の色のなさは、古典派以前の作曲家が書いた楽曲を理解するためには不十分だ、と思わざるを得ませんでした。私はピアニストではないし、弾くのは生徒の伴奏だけ。それも、難しいものはパス(苦笑)ですから、せいぜい、モーツァルト、ベートーヴェン、あとはコンチェルトくらい。これなら、キルンベルガーの方がいいのです。

 私のスタジオに来るピアニストは、みんなびっくりします。和音を弾いて手を引っ込める人もいる(笑)。「これ、調律狂ってます!」

 では、平均律での演奏がだめなのか、というと、そんなことはないのですね。例えば、野平一朗さんのピアノを聞いていると、「平均律でもいいじゃん」と思ってしまいます。他にも、全くストレスなく聞けるピアニストは何人もいます。でも・・・

 要するに、私が下手だということなんでしょうけど(苦笑)

 キルンベルガーに調律したピアノは、とにかく面白いのです。

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新しいiPadと音楽にまつわるデジタル化の話

 今日(8日)未明に、Appleから新しいiPadの発表がありました。最近、音楽関係のデジタル化についていろいろと考えさせられているので、どんなものが出るのか、私も興味を持っていました。

 私のスタジオは、アップル率100%。私が仕事に使っているMacBook Air、お手伝いに来てくれている生徒が使っているのがiMac、予備機は、私が以前使っていたMacBook、そして、iPhoneです。最近は、コピー機も無線でつないであって、作った楽譜もワンタッチでプリントできる、とてもよい環境になっています。テーマは、「iPadで楽譜を見るようになれるか」

 現状では、答えはノーです。もちろん、慣れの問題もあると思いますが、まだまだ使い物になる代物ではありません。しかし、将来、デジタル化した楽譜が使い物になる日が来れば、ピットなどで演奏する時にはかなり楽になるでしょう。重たい楽譜を持ち歩かなくてすむようにもなるかもしれません。

 使い物にならない理由はたくさんあります。書き込みの問題、譜めくりの問題、そして根本的なのは、頭の中に楽譜を取り込む作業が、iPadのような電子機器では「情報が少なすぎる」のです。これは、スコアを使っていると痛感します。「このあたりにある」「このくらいめくる」という勘に頼った作業がとても多いからです。「ページをまとめてめくる」ときには、「何ページめくる」とは意識しません。「このくらい」という、経験値によって得られた「勘」が頼りになるのです。ページで検索するような場合には、iPadのようなものが便利かもしれませんが、頭はもっと「ファジーに」働いているのです。ですから、それを電子機器で再現するのは難しい。

 しかし、「どんな新しいiPadがでるんだろう」と考えているうちに、いくつかアイデアが出てきました。

 iPadが楽譜として使い物になるための「表面的な条件」としてまず思いついたのは、

1)非接触型のセンサーを優秀なものにして、譜めくりが楽になること
2)複数のiPadを並べて、楽譜の配置を自由にできること

の2つです。もちろん、

 これでも、使い方は限られています。楽譜に書き込む、消す、という作業は、まだまだ現在のiPadでは無理だと思いますが、そのうちできるようになるかもしれません。ペンタブレットのようなものがさらに優秀になれば、それほどストレスなく使える日もそう遠くないかもしれません。でも、そのことが「紙の楽譜をiPadに置き換える」積極的な理由にはなりません。しかし、上に挙げた2つは、電子機器ならではの使い方を提示してくれるかもしれません。

 オーケストラやアンサンブルでの譜めくりを想像してみて下さい。苦労している人も多いでしょう。非接触型のiPadが2つ以上並んでいて、手をかざすだけでめくれたら、とっても便利です。もちろん、複数のiPadを並べて、楽譜が送られるようにすることも必要でしょう。

 楽譜の編集も楽になりますね。楽譜ソフトと連動するようになれば、スタジオ録音などではとても便利なツールになる可能性があります。

 しかし・・・

 やはり、私の想像力では、出版譜より使いやすいiPadの使い方は出てきませんでした。あっと驚くようなものが登場するのか、それとも、人間の感覚には、どうしてもアナログのものの方が合うのか、これから、新しい文化のせめぎ合いが始まるのかもしれません。

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音楽業界の厳しさ

 音楽業界、特に、音楽に関わる出版の不況が深刻です。金融不安、東日本大震災、欧州の金融危機など、経済状況が悪いのは音楽に限ったことではありませんが、それでも、ここ1年ほどの状況は目を覆うばかりです。

 音楽之友社で、会社側と従業員の間で、退職金に関して裁判沙汰になっていることは、ご存知の方も多いと思います。音楽之友社にはそれなりの特殊事情もあるようですが、それにしても、どうあがいても勝てそうにない裁判に持ち込まざるを得ない音楽之友社の状況は、容易に想像がつきます。

 ネットの普及で出版物が売れなくなった、という話はよく聞きます。確かに、インターネットというツールが出版物に取って替われるものも少なくないでしょう。電子書籍などは、ある一定のシェアを取っても不思議ではありません(私は、どうもダメですが・・・)。しかし、音楽之友社の出版物のなかには、電子化できないものも少なくありません。特に、楽譜は、しばらくは印刷物でなくては役に立たない状況が続くでしょう。

 楽譜が売れなくなった原因のひとつに、ネットに氾濫する無料(ないし、安価な)楽譜の存在もあります。コピーが簡単にできるようになっただけでなく、元になる楽譜ですら無料で(ないし、極めて安価に)手に入るようになっては、出版社はたまったものではないでしょう。ネットで楽譜を無料で手に入れて、付加価値がある校訂部分は誰かのを写す、そんなことが当たり前になったら、楽譜の出版そのものが成り立たなくなります。現代まで音楽文化を支えて来た出版社がなくなってしまったら、と考えると、哀しくなります。

 楽譜だけでなく、音楽書も厳しいようです。それだけでなく、音楽を生業にしている人たちにとって、過去に経験のないような厳しい状況が続いているとも言えます。もちろん、音楽大学が多すぎるという問題もあるでしょうが、「音楽で食べる」ことは、これまで以上に厳しいものになると言わざるを得ません。

 職がない人が溢れている不況の時代に音楽で「喰う」ことなど贅沢なのかもしれませんが、それでも、音楽が人々に与えるものの大きさを考えると、なんとかこの時期を乗り越えて欲しい、乗り越えたい、と思うばかりです。

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玉木宏樹さんを悼む

 作曲家でヴァイオリニスト(というより「純正律研究所」を主宰している、と言った方がいいだろう)の玉木宏樹さんが亡くなられた。まだ68歳。もっともっと活躍して欲しかったと思う気持ちでいっぱいだ。

 氏とは、生前に何度かお会いした。とはいえ、ゆっくりお話をしたのは1回だけだが。音楽業界では異端児扱いされていたが、その知識量と実力は、遺された多くの曲や学習者用の楽譜を見ればわかる。極めつけの「頑固者」だったが、敢えて「過激派」を装っていた面もあるのではないかと思う。「世の中のヴァイオリニストは全員、音程が悪い」と言い切ってしまうその発言は、音楽界に対する、彼なりの危機感の表れだったのだと思う。「音程がよいヴァイオリニストは誰ですか?」「俺しかいないに決まってるだろう」という言い方は、彼の傲慢ではなく、世の中のヴァイオリニストが音程に関してあまりにも無関心すぎる、という彼の憤りがさせた発言なのだろう。

 氏とゆっくりお話ができたのは、ストリング誌に連載を書いていた時のことだから、もう10年近く前になるだろうか。音程についての連載を、当時の(今もかな?)青木編集長が考えていて、「音程の教育は間違っている」と考えていた私との「対談」を企画していただいたことがきっかけだった。対談、と言っても、玉木さんと私では、その知識量と経験値には大人と子どもほどの違いがあったので、私が言いたいことを言った後は、主に玉木さんの話を聞く側にまわった。そのときに、玉木さんと私でピアノ(電子ピアノで音律を変えられるもの)とヴァイオリンを取っ替え引っ替え、いろいろと曲を音律を変えて弾いて、私に音律の違いを実戦的に経験させていただいたことは、私にとって貴重な体験だった。(その後、飲みにいったときに、中東問題で大論争になったことも懐かしく思い出される。お互いにたいがい頑固者なので、価値観の違いに到達すると譲らないのだ。)

 世の中が「総思考停止状態」になっている日本の現状を考えると、彼のような存在は貴重だった。私とはかなり考え方が違ったのだが、それでも、拝聴すべき情報を発信し続けていたと思う。

 日本の音楽界は、また、貴重な人材をひとつ、失った。

 心よりご冥福をお祈りします。

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「ザッツ」ってなんだ???

 最近、あるアマチュアオーケストラのコンサートマスターからこんな話を聞きました。

「指揮者に、もっとザッツを出せ、と言われる。他のパートが出るのを間違えるのは、コンサートマスターがきちんと動いてみせないからだ、と言われたけど、コンサートマスターって、そんなにザッツを出すものなの?」

 うーん、とうなってしまいました。アマチュア・プレーヤーならともかく、指揮者がそういうことを言うとは・・・

 こういった勘違いは、アマチュアのベテラン奏者に多く見られます。「トップの仕事はザッツを出すこと」という誤解は、かなり広まっているのではないかと思います。(私が今までご一緒させていただいた指揮者で「これは凄い!」と思えた方が、勘違いをして大げさに動いていた若い頃の私に「指揮者は俺だぜ」と、にやっと笑われたことを思い出します。)

 そうなんです。指揮者を見ていれば、入るところなどはわかるものなのです。それがわからないとしたら、指揮者が悪い(笑)もちろん、奏者が楽譜を見ていなければ論外ですが・・・

 アンサンブルなどをしていると、「トップはザッツを出して、みんながそれに合わせるんですよね」という質問をよく受けます。答えはもちろん「違います!」

 オーケストラにしてもアンサンブルにしても、アマチュアの方には、必要以上に体を動かしているリーダーが多いような気がします。きちんと、しっかり弾いて、自然に体が動いていればよいのです。もちろん、何かあった時には、きっちりとザッツを出すことが必要ですが、指揮者が優れていれば、それすらほとんど必要ありません。

 リーダーは、堂々と弾いて、プレーヤーをリードすれば良いのです。

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弦楽器フェア2011

 恒例になった「弦楽器フェアツアー」に行ってきました。

 私のレッスンの最大の方針は「楽器をきちんと鳴らすこと」です。どんなベテラン(や音大生)でも、最初に要求されるのは「開放弦をきちんと鳴らすこと」です。これがなかなか難しいのですが、結果として、始めて数年のレイトスターターでも、私の生徒は、音はいっぱしです(笑)。

 その結果として、楽器に対する不満が「表面化」するのが早いのです。

 私は、最近の新作楽器の多くに、実は大いなる不満を抱えています。最大の理由は「プレス耐性が弱い」ということです。

 導入用の量産楽器に顕著なのですが、とにかく「雑音を少なくする」ことを最大のコンセプトとして作られた楽器が多く、どの楽器も「弱い」のです。昔は、「新作楽器はそれなりに雑音が多いもの」でしたが、ここ10年くらいの新作楽器をみていると、どれもこれも雑音が少なく感じます。そのかわりに犠牲にされているのが、楽器の「鳴り」です。さっと、なでるように弾くのであれば良いのですが、しっかりした音を出そうとして腕の重みを十分にかけると、音がすぐに歪んでしまう楽器が多いのです。

 こうした楽器は、教え手に取っては楽かもしれません。楽器を鳴らさなくても、そこそこ「きれいな」音がするからです。そのせいかどうか、最近「転校」してくる生徒は、どの方も右手の余分な力は少ないかわりに、音がないのです。

 生徒に楽器を持たせて私が弾くと、全員、びっくりしてしまいます。「こんなに大きな音がするんだ!!」

 そうなんです。楽器って、ほんとに良く鳴るんですよね。それを、まず、知って欲しい。

 最初は苦労しますが、音が出てくると、楽器の限界が見えてきてしまいます。「楽器の能力の80%が出せたら、楽器を替えないと不満が出るよ」と私は言っていますが、前述のような「重さに耐えない」楽器を持っていると、あっという間に楽器にたいして不満ができてしまうのです。そのために、生徒の「楽器買い替え率」が異常に高い(苦笑)。

 楽器を買うことは、人生の一大事です。安いものではありませんからね。(でも、不思議なのは、10年経ったら無価値になる車には何百万も平気で使う人が多いのに、きちんと使えば価値が減らない楽器が「100万」というと、「高い!」と思われる方が多いことです。価値観の違いですが・・・)そのために、音楽やヴァイオリンを弾くことの経験値が低い生徒が楽器を新調しようとする時には、たくさんの楽器屋さんを回らせます。てっとりばやいのは、弦楽器フェアです(笑)

 ご存知のように、弦楽器フェアには、製作家協会の会員さんたちが作った楽器だけでなく、楽器屋さんのブースもたくさん出ています(しかし・・・減りましたねぇ・・・景気のせいだと思いますが・・・)。いろいろなタイプの楽器を弾いたり経験したりするチャンスなのです。そこで・・・

 楽器を新調したい生徒を連れて弦楽器フェアに行くことが、半ば恒例化してしまいました。生徒を何人も引き連れて楽器を弾いて回るのを見て、ある生徒が「院長回診だ/笑」。しかし、一緒に行く生徒は、みなさん「良い経験をしました」と言ってくれます。

 今年は、毎年出展されている会員さんの楽器の中にも、「これは面白い」と思うものが数点ありました。昨年までと明らかに違う楽器になっているものもあり、とても面白い。値段に関わらず、面白いと思う楽器を弾かせていただくのは楽しいものです。意外(去年まではあまり面白いと思わなかった)な出会いもあって、生徒たちも「ほんとうに、いろんな楽器があるんですねぇ・・・」と素直な感想。弾いた楽器は、のべ140台。桁違いに高いものを除けば、その中で印象に残った楽器が8台ありました。この楽器たちが、どこでどのように活躍するのかを想像することも楽しいことですね。

 終了後は、神保町の中華料理屋で「お疲れさま」。たしかに、ちょっと疲れました(笑)来年もまた行きます。

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